スピッツ『ルナルナ』が受肉した漫画『オンノジ』
スピッツの曲で何が1番好きか聞かれた時、あまりにベタな曲あげるのもなんか違う気がするなと思ってとりあえず言う曲ランキング4位くらいの「ルナルナ」。
この歌を見事に具体化している漫画を発見しました(僕が勝手に思ってるだけです)。施川ユウキ先生の作品「オンノジ」です。

オンノジ (ヤングチャンピオン・コミックス) (ヤングチャンピオンコミックス)
- 作者: 施川ユウキ
- 出版社/メーカー: 秋田書店
- 発売日: 2013/04/19
- メディア: コミック
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ここからは『ルナルナ』と『オンノジ』の類似性について考えていきます。単純に「似てるねえ……」というだけの話なので意味とか考察とかは期待しないでください。「だから何?」の風が吹いて飛ばされそうな軽い記事です。
***
「オンノジ」の世界には、7歳の少女ミヤコとフラミンゴに姿を変えた男子中学生オンノジしか存在していません。つまり、何らかの理由で2人(1人と1羽)以外の生物が絶滅してしまったのです。
ミヤコとオンノジが出会うまで、2人は長らく単独行動をしていました。
ミヤコは人がいないのをいいことにピンポンダッシュを連発したり線路で寝たり自由に過ごしています。一方オンノジは自分がフラミンゴになった理由を調べようとしたら「フラミンゴのヒザに見える部分は実はカカト」という雑学を見つけて驚いたりしていました。
この2人、状況の割に緊張感がほとんどありません。
ただそれは己の寂しさを紛らわすための演技でもあったのでしょう。
2人はどうしたって隠しきれない孤独の悲しみを、「誰にも邪魔されずに自由に過ごせる」という’’力’’に変えて乗り越えていたのです。
ミヤコとオンノジは、砂浜で偶然に出会います。
世界には自分しかいないと思い込んでいたオンノジが戸惑っているうちに、ミヤコはどこかへ行ってしまいます。
オンノジは砂浜に残されたすぐに消えてしまいそうな足跡からミヤコを追い、自分が見た人間が妄想ではないことを確かめに行きます。
悪夢のような世界の中で、生身の人間だけが唯一の現実に感じられたのでしょう。
忘れられない小さな痛み 孤独の力で泳ぎきり
かすみの向こうに すぐに消えそうな白い花
(スピッツ 『ルナルナ』より)
***
ただ、オンノジは足跡からミヤコを見つけ出すことはできませんでした。やはりミヤコはただの妄想だったのでしょうか。
唯一の希望を失ったオンノジはまたふりだしに戻ってしまい、白い服の少女を探して彷徨を続けます。
そして、彼は喫茶店で再びミヤコを発見します。
彼女は何故かコーラでシャンパンタワーを作っており、最終的にはそれをひっくり返して台無しにしていました。
その一部始終を見ていたオンノジは、
なんて
アナーキーなんだ
と呟きます。
思いつかれて最後はここで
何も知らない蜂になれる
瞳のアナーキー ねじれ出す時 君がいる
(スピッツ 『ルナルナ』より)
***
こうして出会った2人は、異常な世界の中で変わらず緊張感のない楽しみを見出していきます。
無人の遊園地の散策。誰もいない交差点のど真ん中でゲリラライブ。それまで存在していた人類の残した少しおかしな張り紙にツッコミを入れたりもします。
オンノジはフラミンゴでありながら空の飛び方を知りません。
この世界において「飛べない」という事実は「飛躍的な移動ができない」という絶望を意味します。オンノジがフラミンゴで、ミヤコが人間である以上、彼らはこの狂いきった日常から脱することはできないのでしょう。
作中では操縦士のいない飛行機や出来損ないのロケットなど、オンノジ以外にも「飛べない」アイテムが象徴的に登場します。恐らく「脱出不可な現状をどう生きるか」という命題が物語の大きなテーマなのだと考えられます。
「君」を見つけた2人の物語は、とうとうサビに突入します。
彼らは決して絶望の影を見せません。 オンノジは原付の後ろにミヤコを乗せ、高速道路を占有して温泉旅行にだって行ってしまいます。誰もいない世界の中で、常に新しいときめきを探して飛び回っていたのでした。
2人で絡まって 夢からこぼれても
まだ飛べるよ
新しいときめきを丸ごと盗むまで ルナルナ
(スピッツ 『ルナルナ』より)
***
1人と1羽のヘンテコな日常が続く中、今度はミヤコがオンノジの実在を疑い始めます。
オンノジと過ごした時間は
1人で街をさまよってる毎日の中で
一瞬の間に見た白昼夢だったのかも知れない
他者の存在を近くで確かに感じたかったミヤコは、オンノジにプロポーズします。
夫婦になった2人は誰もいない路地にビアガーデンを作り宴を始めます。
何が現実で、何が夢で、なぜ彼らがここにいるのか。謎だらけで眠れなくなるような夜。夫婦は奇妙な世界をちゃかすかのように、盗んだ酒でどんちゃん騒ぎしていました。もちろん彼らは未成年ですがこの世界の善悪は2人にしかわかりません。
ミヤコは酒の力を借りて、月に向かい「神様のばーか」と叫びました。
羊の夜をビールで洗う 冷たい壁にもたれてるよ
ちゃかしてるスプーキー*1
みだらで甘い 悪の歌
(スピッツ 『ルナルナ』より)
***
世界はわけのわからない状態を保ったまま何も変わりませんでした。
しかし、ミヤコはオンノジと過ごすこの世界に愛着を感じるようになっていました。
「世界にかけられた魔法が解けるかもしれない」という理由で、フラミンゴに変身する前のオンノジの写真を見ようともしませんでした。
元は悪夢のように感じていた町並みも、だんだんと輝かしく思えてきます。
非日常的な毎日は、まだたくさんの人が生活していた時代の退屈さを打ち破るものでした。
このまま止めないで ざわめき避けないで
ほら 眩しい
不思議な出来事は 君へと続いてる ルナルナ
(スピッツ 『ルナルナ』より)
***
この不思議な日々がどのような結末を迎えるのかは明言しませんが、翼を持たない我々にも「まだ飛べるよ」と思わせてくれる作品だと思います。ここで挙げてないようなシュールなギャグがぎっしり詰まった漫画なのでオススメです。1巻で終わるので是非。
*1:気味の悪い、という意味